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Social Policyとは何か②

今の寮ですでに3回火災報知機が鳴っています。Cry-wolf Syndromeのちよわかまるです。

本日はSocial Policyが学問としてイギリスでどのように発達したのかをさっと整理します。勉強中ゆえ、多少ふんわり感はあります。


ざっと100年さかのぼり、19世紀末。
Social Policyの起こりは、Fabian Society(フェビアン協会)と深くかかわっています。Fabian Societyは1884年に設立され、当時官僚だったSidney Webさんの影響を強く受けています。
18世紀は産業革命および私有財産制に基づく資本主義社会です。でも、19世紀になったらいろんな問題が出てくるわけです。低賃金、失業、貧困。市場経済を廃止した社会主義で解決してみよう!なんて動きもあったり。
そんななか、Fabianさんたちは、市場経済は福祉のニーズに適合するという前提に立ちます。ただし、市場が提供できないものは国家の政策によって達成される必要があると主張します。国家の政策を変えるためにはどうする?政治的な力が必要だね。ということでFabian Societyが基盤となり、現在に続く「労働党」が結成されます。


労働党の台頭より少し前から、自由主義的な政府の下で救貧法の見直しが行われていました。救貧法ってのがなかなかすごくて、16世紀頃から改正を重ねて存続してきたのです。その中で、福祉給付は国家がやるよね、いやいやチャリティとかボランティアでも大丈夫でしょ、という「福祉の担い手」の議論はずっとあったんです。
Sidney Webbさんは、Fabian Societyをつくって国家給付型福祉を主張したわけです。さらに、政策の研究と評価もしなきゃならんということで、1895年にLondon School of Economics(LSE)を設立。LSEは、史上初のSocial Policyを研究する重要な機関となり、その後もBeveridge(ベバリッジ報告を書いた人)、 T.H. Marshall(citizenship論を展開した人)、Richard Titmuss(初のSocial Administrationの教授)などの研究者が活躍します。LSEを草分け的存在として、イギリスではSocial Policyが学問として発展していきます。


20世紀の第二次世界大戦後、ついに福祉国家が誕生します。労働党主導の国家給付型福祉が勝利するわけです。すると早速ベバリッジ報告のFive Giant Social Evils(5つの巨大な社会悪)という指摘に基づいて、具体的な社会政策が形成されます。
Ignorance(無知)・・・15歳までの無償教育
Disease(疾病)・・・NHS(国民健康保険サービス)
Idleness(怠惰)・・・完全雇用の保障
Squalor(不潔)・・・全市民に対する住宅保障
Want(貧困)・・・国民保険を中心とする諸サービス
こんなかんじで、Fabian Social Policyは学問分野として発達しつつ、政治的な力も得て、最終的に福祉国家に結実したわけです。市場経済と資本主義社会を前提として、国家が福祉の担い手となるというモデル。1970年ごろまで、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」の時代となります。


しかしその後、Fabianさんたちの考えは狭いんじゃないか、という批判が出てきます。
それまで学問領域としてはSocial Administrationと呼ばれており、実務的な側面が中心でした。どのような福祉が必要かより、どのように福祉を実行していくか。ニーズが何かより、ニーズをどう測定するか。でも社会政策の根底にある思想とか、規範原則の部分とかも分析した方がいいんじゃないという方向になっていきます。そして、なぜ国家による福祉給付が必要なのか本当にそれは必要なのだろうかというそもそも論も含む多角的な分野に広がっていきます。こうして、Social Administrationから現在のSocial Policyに学問の名称を改め、生まれ変わります。


ここからは面白くもあり、なかなか大変な時代になっていきます。
社会主義的な視点からは、労働搾取も貧富の差もむしろ悪化してるぞ!Fabianの福祉国家は結局のとこ資本主義社会の維持存続のためだろう!と批判されます。
はたまた、不景気と公費支出の拡大をどうにかせにゃならんというサッチャーさん率いるネオリベラリズムからも批判されます。国家の福祉給付はそもそも必要なのかという、かなり厳しめな問いかけがなされます。
他にも、フェミニズム・反民族主義・障がい者自立・環境保全など様々な社会運動が巻き起こってまいります。福祉国家の限界がガンガン指摘されていきます。


20世紀末は混迷を極めるわけですが、21世紀の労働党政権はThird Way(第三の道)という考え方を示します。民間部門と公共部門をうまく組み合わせながら、Social Policyを実行していくんだと言います。さらに、思想や理論じゃなくて実証的なデータを重視します。実用性と結果が大事というPragmatismです。


と、ざっと教科書を参考にまとめてみました。なかなか面白いですね。
LSEってSocial Policyの総本山なのね~という驚き。
福祉国家の限界とともにSocial Policyはなかなか考え甲斐のありそうな学問になっています。

 

 

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