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フリーター、イギリスへ行く

イギリス/大学院留学/LSE/Social Policy

貧困ってなんだー!(四)

こんにちは、ちよわかまるです。
今日は「Social exclusion社会的排除」の話をしたいと思います。真面目な回です。

今までの連載で書いた貧困にまつわる議論のなかで、貧困の原因は個人と構造のどっちも関係あるよーっていう話と、人間として社会活動に「参加」するのが大事だよーという話が、今回の「社会的排除」という考え方にむすびついています。

まあ、いつの世も新しい概念が出てくると混乱するわけでございまして。「社会的排除」の定義はふわっとしがちです。ぼくの通っているLSEにはCentre for Analysis of Social Exclusion(通称CASE)という機関がありまして、そこの研究者はこんな感じで定義しています。

‘An individual is socially excluded if
(a) he or she is geographically resident in a society but (b) for reasons beyond his or her control, he or she cannot participate in the normal activities of citizens in that society, and (c) he or she would like to so participate’ (Hills et al, 2002).

つまり、そこに住んでいるんだけど、自分ではどうしようもできない事情のせいで、その社会で当たり前とされている活動に(参加したいのに)参加できない。という人を社会的に排除されている、と言う。何かわかるようなわからんようなですわな。

「社会的排除」の特徴として、ポイントがいくつかあります。
①多面的である(Multi-dimensional)
経済的、政治的、社会的に排除され不利益を被るということです。 働いてお金を稼ぐ以外のさまざまな社会活動にもスポットを当てているというのがミソです。
②相対的である(Relative)
特定の社会において他の人と比べてどうかということです。東京に住んでいればお湯のシャワーは当たり前ですが、違う国に行けば水のシャワーが当たり前。時代や場所によって変わるよねってことです。
③動的である(Dynamic)
時間的にある一点ではなく、過程・プロセスのなかで不利益を被るということです。どのくらいの期間貧しい状態にいるのか、などが問題になります。
④多層的である(Multilayered)
不利益が様々なレベルで発生しうるということです。個人、家庭、地域、そして国といった異なる次元でとらえます。

で、分かりやすくするため図なんて作ってみちゃいました。

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ぼくが変に訳すと伝わりづらいので英語のままです。まず一番上のPast influences(過去の要素)ですが、これは「何を持っているか」ということです。裕福な家庭に生まれれば、お金や良いおうち、人とのつながりといった資源(Capitals)があります。逆に、貧しい家庭に生まれて、病院に行けないとか借金があるという場合もあります。こういった要素が現在の行動(Present influences)に影響します。資源が多ければより多くの選択肢がありますが、少なければ制限されたなかで行動することになります。そういった個人の行動が家族・地域など様々なレベルで(真ん中の渦巻きみたいな図の中で)結びつきながら結果(Outcomes)を生み出します。そして、その行動の結果は巡り巡ってPast influencesになり、また次の行動に影響をあたえます。

もっと具体的に考えましょう。
収入が低い家庭にAくんが産まれました。0歳から3歳の人間関係は、その後の発達においてとても大切だと言われています。しかし家庭の収入が低いと、その後の子どもの発達や健康にマイナスな影響を与えやすいと言われています。これは、金銭的な余裕がないために子どものための養育環境(おもちゃや絵本など)をつくってあげられない、または、経済的な困窮が親のストレスにつながって子どもとの関係に悪影響を及ぼすなどと説明されます。もちろん、収入が少なくとも子どもと良い関係を築いている家庭もたくさんあります(それはなぜなのかを解明するのも大事ですよねえ)。
こういった幼少期の環境(Past influences)は、A君のその後の学校生活に影響を与えかねません。つまり、学校でいい成績を収められないということ。お金がなければ、教材や塾などへの投資もできない。となると、その時点でいわゆる教育の機会の差が広がります。
そして、学校での成績(Past influences)は、大学進学や職探しにおいて強力に作用する場合があります。A君が高卒で仕事を見つけたとしても、大卒で就職した人と比べ雇用条件が不安定だったり、生涯賃金に差があったりすれば、収入が低くなりやすいということになります。で、そんなA君が結婚して子どもを持ち・・・
と、このプロセスが連鎖していくということが考えられます。逆に、ぼくのように生まれた時から温室育ちの奴らは好循環を続けていく可能性が高いとも言えます。でも実際はこんなに単純じゃないし、すべてが連鎖するとは限りません。ある研究は、大半の家庭は貧困のリスク(失業・離婚・若年出産など)を経験しないか、経験しても短期間ですぐに抜け出すので、継続的に複数の貧困のリスクにさらされているのは10%未満だと示しています(Oreyemi et al, 2009)。さらに興味深いのは、日本特有のひきこもりという現象は、そこまで収入が低くない普通の家庭でも起きています(コチラ参照)。このあたりが貧困の議論の限界なのかなーという気がしますね。

ちなみに、イギリスでは前政権の労働党ブレア政権のときに「Social Exclusion Unit」という組織を発足させてけっこう積極的に取り組みました。まあ批判もされているけど。でも、2002年に公表されたReducing Re-offending by Ex-prisonersという調査は、犯罪者の多くが複数のリスクにさらされた経験があるなど非常に興味深いデータを示しています。英語ですが最初のサマリーだけでも読んでみると面白いです。

最近のイギリスでは「社会的排除」より「Relative deprivation:相対的欠乏」という方が主流の議論になっているみたいです。いずれにせよ、お金や衣食住という物質的に何が必要かという議論や、個人のせいか構造のせいかのような単純な話ではなくなってきています。多様な生き方や価値観にあふれた現代において、貧困はちょー複雑になっています。「社会的排除」は、多面的で連続性をもった現代の貧困や不利益(Disadvantage)を鋭くとらえていると思います。


今日は徹頭徹尾まじめ腐ってみました。次回、もうそろそろ政策的な話をしておしまいにしたい。


【参考文献】
Cooper, K. and Stewart, K. (2013). Does Money Affect Children’s Outcomes?: A Systematic Review. York: Joseph Rowntree Foundation.

Hills, J., Le Grand, J. and Piachaud, D. (eds) (2002). Understanding Social Exclusion. Oxford: Oxford University Press.

Oreyemi, P. et al. (2009). Understanding the Risks of Social Exclusion across the Life Course: Families with Children. London: Cabinet Office.

★これまでの議論がみたい人はどうぞ★

貧困ってなんだー!(壱) - フリーター、イギリスへ行く

貧困ってなんだー!(弐) - フリーター、イギリスへ行く

貧困ってなんだー!(参) - フリーター、イギリスへ行く



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